舞台照明の楽しみ

クリスマスが近づくと各バレエ団の「くるみ割り人形」の公演数が増える。チャイコフスキーの3大バレエの一つで楽しくファンタジー溢れる作品だ。特に雪の精が踊る場面は暗い舞台を背景にして照明に照らされた白い雪の精たちが踊る美しい場面である。この作品を見てクリスマスを毎年迎えるという人も多い。

バレエに限らず舞台における照明は、総合芸術と言われる舞台芸術の中の重要な要素である。舞台における光は現実らしく見せることを目的とし、その場面の時間、季節、感情などの要素を光で表す。その基本はいかに「光と影」を表すかである。

明るさは人間が印象として感じる明るさを、暗さは暗いと感じる程度の明るさを与えたり、暗さを表現する演技者を見るのに十分な明るさを与えるという形で表現する。

昔、江戸時代の芝居は朝9時頃から始まり、夕方には終わっていたという。もとより照明というものはなく、光源は自然の光だった。小屋には「窓番」という係がいて窓から光を入れ、暗くしたい時には窓をさっと閉めて暗くしていた。歌舞伎の隈どりはそのような中から生まれたという。自然光の中ではより陰影の濃い表情として観客には見えたであろう。

現代では様々な色も調整して出すことができるようになり舞台効果の研究も発展していて照明の演出の幅が大きく広がっている。人間の色彩感情を考慮し、心理的な面までも光で表現し、光で舞台に絵を描くとも言われる舞台照明。光により物理的な面だけの表現だけではなく見ている人に心理的、感情的なものまでも感じさせるように演出された世界はより多くの感動を与えてくれる。

 

日常の世界から生まれる一人一人、一つ一つの物語を、再び再構成させる事が出来る舞台空間。暗闇の中でスポットライトの光に触れ、浮かび上がってくる出演者の繊細でダイナミックな表情と肌の質感、そして発せられる言葉や動き。それらの一連の「舞台」と呼ばれる世界の中で、観客は自身の中に埋もれている様々な過去の記憶を再び、舞台の艶やかな世界に重ね合わせたり、新しい気付きを得る事が出来るのかもしれない。

時には現実から少し離れ美しい舞台を見る事で、照明の光を楽しみながら幻想的な世界で心躍るひと時を過ごしてみてはいかがだろう。