日本人と灯り (5) – 障子の穏やかな光に包まれて

日本人と灯りを考える際に、日本建築において建具でありながら灯りの要素としても重要な働きをしてきたものとして障子が挙げられる。

陰影礼賛を記した谷崎潤一郎は障子の魅力について以下のように記している。

もし日本の座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数奇を凝らした日本の座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰影の秘密を理解し、光と蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。

――中略――

分けても私は、書院の障子のしろゞろとしたほの明るさには、ついその前に立ち止まって時の移るのを忘れるのである。

――中略――

私はしばしばあの障子の前に佇んで、明るいけれども少しも眩さの感じられない紙の面を視つめるのであるが、

――中略――

春夏秋冬、晴れた日も、曇った日も、朝も、昼も、夕も、殆どそのほのじろさに変化がない。

谷崎潤一郎「陰影礼賛」より

障子は平安時代から現代に至るまで、その優れた特性により日本人の生活に溶け込んでやさしい光を与えてきた。障子に使用される和紙は光の透過率が40~50%となっている。また、射しこんだ光は四方に拡散され、どの方向から見ても均一で美しい明るい光となり、清々しく温かく明るい光となって空間全体を包み込む。そのやさしい光は、人の心を癒し、気分を和らげる心理的効果があると言われている。また、和紙は光の反射率が50~60%あり自然の風合いを感じさせる反射光は室内の照明効果を高める効果もある。

外と内をやさしく仕切る建具でもあり、直射日光をやさしく受け止めて室内に明暗のコントラストのない光空間を作り出す障子。日本人の暮らしに合理的であり、情緒的にも適したものとして優れた建具として継承されてきた。

そして近年ではその機能性や光の美しさ、癒し効果などが改めて評価され、和の空間だけでなく、洋の空間や癒しが求められる病院などにも利用されてきている。
伝統的な障子の世界が新しい分野へ広がっていくことで障子による新しい光環境の創造の歴史が始まっているといえるのではないだろうか。