夜に輝く幽玄な光 – 電照菊

日本の春を象徴する花が「桜」だが、秋を象徴する花といえば「菊」である。
そう言われるようになったのは鎌倉時代、後鳥羽上皇が菊の花を好み、「菊紋」を天皇家の家紋とした頃からのこととされている。

菊は古くから日本人に親しまれてきた花で、正月、お彼岸、お月見、など季節の折々に飾られ広く冠婚葬祭に使われる花である。

菊は日照時間が短くなると花芽を作り、花を咲かせる短日植物だ。
その性質を利用し、出荷時期の調整を行うために花芽ができる前の段階で夜間に電照して昼の時間を長く感じさせることで開花を遅らせたものが電照菊である。照明が、沈んだ太陽の代わりとなる。

もともと秋に開花する秋菊を電照することによって年末から3月にかけて開花させ、お正月やお彼岸の品薄の時期にも菊を提供することができるようになった。さらに電照と日光を遮る技術を組み合わせて一年中様々な菊を様々な時期に開花させ出荷することもできるようになっている。

電照菊の栽培方法は1932年に愛知県豊橋市で考案されたもので今では全国で栽培が行われており、渥美半島が全国一の生産量を誇る。
又、沖縄でも彼岸用小ギクの栽培が行われている。

菊産地では真夜中に照明に照らされた電照菊のハウスの灯りがイルミネーションのようになり、幻想的に美しく彩る。この光景は風物詩にもなっており、温かな色の幽玄な光による日本の美しい景色として見る人を魅了する光景になっている。

使用する光源は白熱電球が主流だったが近年では省エネの観点から蛍光灯やLEDの利用も増えてきている。直光型のLEDによる照明に変わることでこの光の 散乱するこの美しい風景はもう見られなくなっていくだろう。そう思うと日本の原風景がひとつ消えていくことへの一抹の寂しさを感じる。
心に刻まれた温かな光景は、時間がどんなにたったとしても人々の心には常に残っている。だからこそ、経済的・効率的なものをちょっと外して見てみれば、この風景は私達が守っていきたいと感じる美しい日本の光の風景ではないだろうか。