ロマネスク建築 (2) – ル・トロネ修道院~光による明暗のコントラスト~

ロマネスク様式を代表する建築として有名な「ル・トロネ修道院」はフランスの南プロバンス地方にあり、カトリック教会のシトー会の修道院である。現在の建物は1160年に建造が開始され、1175年頃に完成したもので、のちにル・コルビジェがラ・トゥーレット修道院の設計に関して多大な影響を受けた建物と言われている。

カトリック教会のシトー会は中世期勢力を誇った一派で「質素、清貧、孤独」を信条とし、隠修士的生活のなかで、祈りと労働によって神に仕え、たたえることを目的としていた厳しい戒律の修道会であった。

ロマネスク建築の特徴は、厚い壁に支えられるアーチ・ヴォールトである。ル・トロネ修道院は石のみを建築材料にして内外部ともに装飾が排除されたシンプルな造りになっている。

厚い石の壁に開けられた窓の開口部からの光は、暗い内部空間に明暗のコントラストを生み出し、外光が微細に変化することによる陰影の表情を刻々と変化させる。空間全体が彫刻的で立体的な美しさを持ち、光による陰影から生まれる神聖で、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

中庭に面する回廊はアーチによる開口が連続していて開放的であり、傾斜のある敷地に対応したための回廊のゆがみや段差が空間にリズムを与えている。この建物は朝から夕刻まで光と共に刻々と表情を変える神聖な空間であったことが伺える建物である。
 
 
Photo by rhodeson