光と陰の世界で生まれ変わるもの – 日本酒 (2)

日本酒は光による劣化を防ぐため遮光瓶に入れられ美味しさが保てたれている。
その味わいも様々な要素が関連して複雑な美味しさを醸し出している。香りがシンプルなものか複雑なものか、濃厚な味なのか、辛口の切れ味か、うまみの強 いものか酸味が勝るものか甘みが勝るものか等、様々な味わいを持つお酒だ。日本酒は酒器を上手に選ぶ事により、更に美味しさが引き立つ。

人は器に注がれたお酒を目で見た瞬間からお酒を楽しんでいると言われ、器から受けるイメージは少なからずお酒の味にも影響を与える。
日本酒を目にも美味しく味わう為の酒器には、素材、形、色、様々なものがあり、光を受けて透明な日本酒を美味しく彩る酒器を上手に選んでお酒を楽しみたい。

錫(すず)を素材にしたものは日本酒との相性が特によく、雑味の無いまろやかな口当たりにすると共に錫の上品な輝きで透明なお酒が引き立つ。そして器を使い込む内にその光沢による、渋い風合いが増す楽しみもある。
漆(うるし)の酒器は、赤、黒、どちらにも透明なお酒が似合い、飲む時の雰囲気が変わる楽しみがある。漆独自の光沢と深い色合いは透明なお酒を引き立て、風味やこくをより感じられるのではないだろうか。
江戸切子の酒器は、美しい色やカットの器と注いだお酒に光が溶け合いきらきらと揺らめき、日本酒を嗜む一時を華やかに演出してくれる。
陶器の酒器は、色、形、のみならずテキスチャーや口当たりに多くの種類があり、お酒との相性の良さを考えて色々選ぶ楽しみがる。特に、青い円模様が底に二重に描かれている利き酒用の「蛇の目猪口」は、日本人の細やかな感性から生まれた器で、日本酒の微妙な色合いを見比べて楽しむ為に作られた器だ。光による色の見え方を器に生かして楽しむという日本人ならではの風流な酒器といえる。

日本酒の世界を演出する様々な器たち。その時々に好みの酒器を選んで嗜んでみるとより日本酒の楽しみ方が広がるのではないだろうか。

光の世界で育った稲穂が精米され、ひとたび陰の世界で杜氏の手によって姿を変え熟成し、瓶に宿り、やがて店頭に並び、見染められる。そして日本酒という生まれ変わった姿で器に注がれ、光の世界に再びその姿を現す。無色透明に込められた様々な味わい、そして器によって浮かび上がる様々な表情とたたずまい。何気ない一杯も、ここに来るまでの繊細な配慮と技術を思い巡らせば、より味わい深い豊かな一杯になるのではないだろうか。