灯籠の光


6月、北半球は太陽が最も長く照り、冬が長い高緯度の地域の人々は一斉に訪れる短い夏を謳歌する。
ヨーロッパ北部ではこの時期、伝統的に夏至あるいはカトリックの洗礼者ヨハネ聖誕を祝う祭りが行われている。
各地でその特徴は異なるが、多くの地域に共通するのが広場のポール、焚き火、男女の縁結びや占い、一年間の健康の祈願である。
昨年ポーランドのポズナン市では、市民一万人以上が参加して夏至祭に天灯を飛ばした。
天灯はスカイランタンとも呼ばれ、竹の骨組みに紙を貼り、ロウを染み込ませた紙の燃焼装置を使った、いわば小型の熱気球である。
無数の天灯の明かりが夕暮れの夜空に漂う美しさは筆舌に尽くしがたいほどだ。
夏至祭での灯りは生に満ちている。

天灯は中国の発祥とされる。古くは戦などでの通信手段として使用されたが、後に節句における祈祷儀式の用具となった。
中国では許願灯(许愿灯)と呼ばれ、春節に願いを書いて飛ばすと叶うと言われている。
タイではコムローイと呼ばれ、こちらは毎年陰暦12月(10〜11月)に行われているイーペン祭で、天の仏陀に感謝の気持ちを捧げ、厄祓いをする という気持ちを込めて放たれる。
イーペン祭と同時に開催されるロイクラトン祭では紙やバナナの葉で作られた灯籠(クラトン)流しも行われる。本来は水の女神コンカーに祈りを捧げ 穢を濯ぐためのものだったが、最近では若いカップルが一緒に灯篭を流すことで愛を確かめ合うという行事になっているという。

一方で、死者を弔う供養としての灯籠流しの文化がある。
インドでは木の葉や花で作った小船にロウソクや花を入れてガンジス川に流すプージャーという灯篭流しが毎晩行われている。
日本での灯籠流しといえば新盆である。帰ってきた故人の魂をあの世へと送り返すために放たれる灯籠流し・精霊流しは長崎のものが規模が大きく有名 であるが、新潟や広島でも行われている。

灯りは時所によって様々な意味付けをされてきた。時に生であり、魂であり、願いなのである。