能装束と光

少しずつ暖かさが肌に触れ、春から夏の訪れを感じられる季節。
夜の空気を満喫できる季節に、胸が躍る。

伝統的な夏場の夜の催しとして、日本では薪能(たきぎのう)が行われている。
薪能とは夜の能舞台の周囲にかがり火を焚いた中で選ばれた演目を演じるものであり、平安時代中期に奈良の興福寺で催されたものが起源になっているという。

能装束には金糸が使用されている。金糸は薄い金銀箔と和紙技術の発達した日本に於いて特に普及した製品であり、機械による大量生産が始まるまでは、和紙に漆を塗り、その表面に金箔を貼り付け、糸状に裁った平箔と、芯糸の周りに平箔を巻いて撚った撚金糸の二種類が手作業で作られ、高級品であった。金の文様の織り込まれた衣装、また能面の微妙な表情の変化も、篝火に照らされることでより幻想的で厳かな印象を観客に与える。

月明かりと炎の下で見える、繊細な能装束と演者の動きは、独特の雰囲気と艶めかしさを纏っているにちがいない。