秋告げ虫

ひぐらしの鳴く山里のゆふぐれは風よりほかにとふ人もなし

(詠み人知らず、古今和歌集)

古くから人はカナカナカナ…と鳴くひぐらしの声に盛りから移りゆく季節を重ね、どこか寂しさを感じていたものだ。

秋告げ虫とも言われるひぐらしだが、実は6月の中旬から9月までと、出現時間が長いのも特徴である。本当は夏の早いうちから鳴いているのに、他のセミたちの声に紛れてその存在に気づかれない。普段高いところにいるため、その姿を見たことがない、という方も少なくないだろう。どことなく憂いを帯びているように感じられるあの声だが、海外出身でセミの声に慣れない方にとっては騒音に感じられ気が狂いそうになるのだとか…。

鳴きだすタイミングは周囲の照度と温度が条件であるという研究がある通り、彼らは日の出前や日の入ごろ、曇りどきなど涼しく光の強すぎない時間帯に鳴く。
都会は明るくひぐらしが好む樹液の出る木もそう多くはない。あまり声を聞く機会に恵まれないため、街に住んでいる方にとってはお盆や帰省、旅行やキャンプなどの非日常のイメージがなんとなくついているのではなかろうか。

どこかで鳴いているひぐらしの声ももう聞こえなくなるころ。少し周りの余分な光を消して、あの声に想いを馳せながら秋の夜長を楽しんでみるのも一つの楽しみかもしれない。