色を聴く、音を見る

色鮮やかだった緑の木々が落ち着いたグレイッシュな色味に変わっていくダイナミズムを楽しむ頃になってきた。実際は光だけでなく音も変わっている。セミや鈴虫の声もいつの間にかいなくなる。東大寺の付近ではもう鹿がさみしげに鳴いていることだろう。もみじの紅葉ははじまっているだろうか。
知覚が繊細に刺激されるのがこの季節の魅力と言える。
見ることと聞くこと、もしこれが同じ感覚だったら…ということを考えたことはないだろうか。

ニール・ハービソンというアーティストがいる。
彼は、色を感覚するために色彩を音として認識するセンサーを頭につけて生活を営んでいる。赤や青という色を特定の周波数に変換して脳を通じて音として感覚するというのだ。
TEDでの彼のプレゼンテーションでは、彼の半生と音の色彩について自分の感覚を述べている。

”I started to perceive normal sounds as color too. Telephone tones started to sound green, the BBC pips became turquoise, and listening to Mozart became a yellow experience, even people’s voices had dominant colors”

ニールは電話の音に緑を感じ、BBCの時報はターコイズ、モーツァルトの曲はイエローを感じたと発言している。彼は生まれつき色覚障害を持っており、21歳のときにセンサーを付けて過ごすようになったがそのうち色を音に感じるだけでなく、音を色に感じるようにもなっていった。
ついに最近は改良の上、人間が知覚不可能な赤外線や紫外線をも聴くことができるようになったという。我々はもちろん赤外線や紫外線は可視領域でないため知覚することはかなわない。しかし周波数という形で、彼は認識するという夢をかなえた。

光、色彩を視覚以外で感覚することができたら世界をどう知覚することが出来るのだろうか。トランスヒューマニズムという観点で考えると考慮すべき面も多くあるが、ニールの事例は非常に重大な観点であると考えられる。共有する世界が異なる、違うことを前提にコミュニケーションできる世界を考える上で、感覚の違いを知覚する糸口となる非常にユニークな事例であると言えるだろう。

芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋、と人が秋に抱くイメージは現在多種多様である。
変わりゆく景色、音、においや温度。隣にいる人はこの瞬間に何を感覚しているだろうか。
過ごしやすくなってきたこの季節、自分特有の感覚を共有することからコミュニケーションをはじめてみては。

ニール・ハービソン氏のプレゼンテーション