江戸時代の生活と光4-1─光との関わり方(遊び)


江戸時代の人々は、明るい照明が無く夜は暗い生活ではあったがそうした環境の中でも光を楽しんで暮らしていた。その光との関わり方についてみてみる。

江戸時代には庶民の遊びとして手を使った「手影絵」や幻灯機を使った「写し絵」という影絵文化があった。「写し絵」は関東の名称で関西では「錦影絵」と呼ばれていた。※1※2

「手影絵」は手や指の形を組合わせて、犬、猫、などの動物や船頭などの人の様々な影を表現するもので灯火により壁や障子、襖などに形を映し、楽しむ遊びである。いろいろな形の作り方を記した当時の指南書が残されており、庶民が広く影絵を楽しんでいたことが伺える。

夏の風物詩である「回り燈籠」(まわりどうろう)は影絵を利用したもので、外枠に薄紙や布を張り、内側にいろいろな形を切り抜いた円筒を立て、中心にろうそくを立てた灯籠。ろうそくに火をともすと、その火気で円筒が回り、円筒の切り抜かれた形が外枠に影絵となって映って回転して見える。軒から吊るした回り燈籠のほのかな光で映しだされた動きのある影絵をみることは、夏の夜の楽しみであり、特に子供には喜ばれていた。

「写し絵」は幻灯機を使い、映し出した動く絵と共に語りと音楽を楽しむもので現代の映画の原点とも言われているものである。その仕組みは幻灯機の前面に色鮮やかな絵が描かれたガラス板をセットして、内部の油皿に立てた芯を灯した光を後方から当てて専用の和紙スクリーンに絵を映し出すものである。ガラス板は挿入式で入れ替えや重ね映しが容易で映像の変化を楽しめるようになっている。

日本の幻灯機はオランダから大阪に伝わったものを日本人独特の発想で展開したもので、金属製であった幻灯機を木製にし、軽く手に持って操作できるようにした。映し出されるキャラクターは動きを分解した絵を連続して映したり幻灯師が語りに合わせて縦横無尽に動いて絵を動かすことで現代のアニメーションを見るような動きのある映像が楽しめる。そこに文楽などの人形芝居の要素が入り、さらに説経節や落語という伝統的な「語り」と楽曲が結びついき、きわめてオーディオビジュアルなエンターテイメントであった。

闇の中でこそ楽しめる影絵や写し絵を創意工夫によっていろいろな形で楽しんでいた江戸時代の日本人。現代のメディア・アートの源流としての文化がすでに江戸時代に生まれていたことは日本人の創意工夫と匠の技があってこそであったと言えるだろう。

※1 映し絵: 日本辞典 http://www.nihonjiten.com/monogatari/data_27.html
※2 錦影絵: 大阪歴史博物館 http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2011/tenjigae/110912.html