光と精神 (10)

光と精神10―病室

近代看護教育の母として知られるフローレンス・ナイチンゲール(1820年~1910年)は病院建築でも非凡な才能を発揮し、それまでの不衛生な病院の改革を行った。彼女の提唱した病院建築はナイチンゲール病棟と呼ばれ当時世界中の病院建築に取り込まれ、病院建築の原点を示すものとして今でも高く評価されている。

彼女が健康的な病院建築に必要と考える条件に、「病室に太陽光線を十分に入れること」が挙げていた。太陽光線の不足が病院に不健康さをもたらす要因の一つとし、病室には太陽光線をできるだけ取り入れられるように窓は高い天井まで延びた3層の窓を設置したという。
最近の研究で太陽光の十分な病室の患者の治癒力が高いということが分かっている。
ナイチンゲールは当時看護の経験から病室の太陽光線の重要さを認識していたのだろう。

今日、病室において治療行為を効率よくサポートする機能に加え、患者の治癒力を高めることができる環境づくりに力が入れられている。その際に最も重要となるのが光環境である。

病室は体を癒すために過ごす空間であり、患者がリラックスできる環境を作り、自己治癒力を高める工夫が大切である。患者の生活の快適性を高めるには、落ち着きや安らぎや癒しを感じることができる光環境が必要である。

基本は太陽光をできるだけ取り入れ、眺望を得られるように窓を設け、人工照明で補助する。
サーカディアンリズムを整えられるようにするために調光調色の照明が病室には理想である。また、天井や壁を明るく見せるような照明で全体を照明し、起きている人にも横になっている人にもグレアの無いような工夫が必要である。

各人の個別の照明は、患者が容易に点滅、照射方向を調整できるものとし、読書、食事、処置などのシーン毎に光を調整できる器具があれば快適性、利便性共に高いものが得られる。

多床室の場合、個別照明が他の患者にグレアを生じさせないような配慮も大切である。

太陽光を十分に取り入れてグレアの無いやさしい光に包まれた病室は、患者の心の緊張を解き、落ち着きややすらぎを感じることができ、治療効果にも良い影響を与えることができる光の治療室となることだろう。

photo by gardener41