明るさを求める姿勢から陰を楽しめる姿勢へ (2)

薄暗さとは光に対して陰の存在であるともいえます。
日本建築は光と陰を上手に演出してきました。(谷崎の陰翳礼讃にも書いてあります。)

その陰を味わう事は心や精神の余裕があってこそ出来るものです。薄暗い微妙な明るさを感じることが出来る繊細な心の動きがなければ、その環境を味わい楽しむ事は出来ないのではないでしょうか。微妙さを感受するには心の余裕が必要と言えるでしょう。

今まで日本人は高度成長期を駆け抜けてきて、バブル崩壊後もその名残で照明にも明るさを求め続けてきたと言えます。
震災を経た今こそ、日本人の持つ光への感覚について考え、日本人が昔から持っていた微妙な光への感受性を大事にした光の環境づくりが求められます。そして現代の溢れる情報の中で、刺激の強いものに囲まれた余裕のない生活の中でも、生活の余韻を楽しむ心のゆとりのある生活を送る姿勢を持つようにする。そうする事で光と陰のある環境を、細やかな情感を持って味わうことができるようになるのではないでしょうか。

このように大震災を機に、その動きはあちこちに見られています。そして今後もその啓蒙に力を注ぐことで、利用者の意識も変わってくるのではないでしょうか。

利用者の意識改革が進めば、「必要なところへ必要な光を」―という我々、照明計画側の適正な計画が生きて、より豊かな光環境の実現が生まれると期待しています。

 

写真:銀山温泉 藤屋旅館(ALG照明デザイン) (C)Ano Daichi