視覚と光2─杆体と錐体

人間の網膜には明暗に反応する杆体(かんたい)と色に反応する錐体(すいたい)が存在する。これらの細胞を通じて視神経経由で視覚情報が大脳に送られ、視覚となる。

杆体は暗視野で機能し、明暗のみを感知するもので約1億個あり、視細胞の95%を占めており、網膜に広く分布している。

錐体は明視野で機能し、数百万個あり、色を感知し、3種類の錐体(S錐体、M錐体、L錐体)をセンサーとする色覚機能を持ってる。S錐体は紫と青の感度を持ち、M錐体は黄、緑、青に感度を持ち、L錐体は赤、橙、黄、緑に反応する。現代人は色覚を司る錐体の種類が3種類であることから、一般には3色型色覚であるとされている。

では生命の長い進化の歴史の中で人類は色覚能力をいかに獲得してきたのかみてみよう。

およそ5億年前の脊椎動物の共通祖先は、赤、青、緑、紫外(紫)、の4色性色覚を持っていたと考えられている。しかし2億5千万年前には哺乳類の祖先が夜行性の生活をするようになり、それに応じて錐体は4種類あったうちの2種類の機能が退化して失われ、S錐体、L錐体の2色性色覚となった。その後およそ3千万年前になって人を含む霊長類の系統には昼光性の生活をするものが現われた。そしてL錐体から分離したM錐体の遺伝子を持つようになり、2色性錐体から3色性錐体となり、それが現在の人類の3色性色覚に受け継がれていったと言われている。1)

色覚の特性は動物の種類によって異なっていることが分かっており、錐体の種類は1色型から4色型まであるいは5色型まであるという説がある。魚類、昆虫類や鳥類などは4色型が多いとされ、人間とは異なった色覚世界の中で生きていることになる。

視覚特性はどのような環境に適応して生きているのかに応じてそれぞれに備わっていると考えられ、人間が杆体細胞が多いことで明暗の感覚に優れているのは、長かった夜行性の活動に適応して進化した結果であると考えられている。