視覚と光3─暗順応・明順応

前回取り上げた杆体と錐体の視細胞は、視環境に順応して働く。明るい空間から暗い空間に移動すると暗さにすぐには慣れずにしばらくしてから物が見えてくるという経験は誰もが持っていることだろう。これは、作用する視細胞が、錐体から桿体へ切り替わることによって起こる現象で、「暗順応」という。

反対に暗い空間から明るい空間に移動すると始めは明るさになれないが徐々に見えてくる現象が起こり、それを「明順応」という。明順応は40秒から1分ですむのに対し、暗順応は完全に順応するまでには30分くらい長い時間を要するという特徴がある。

暗順応明順応に応じた照明の例として道路のトンネルがある。運転中に明るいトンネル外からトンネルに入ると急に暗さを感じてしまう。そのためトンネルには入口では照明の設置間隔を短くして明るさを確保し、視界が悪くなることを防いでいる。トンネル内に進んだ地点では暗順応が進み目も慣れて見えてくるため、照明は間隔を長くして対応できる。反対にトンネルから出る地点では明順応に対して出口付近を明るくする必要があるために照明の設置間隔を短くする必要がある。※1

日常生活においても天候によっては建物の屋外と屋内で明暗の落差が大きく、目がくらんだようなってしまうことがあり、建物のエントランスなどでの明暗の反応については、配慮が必要である。

また、住宅などでは、特に高齢者の暗順応に関する配慮が必要である。高齢者は暗順応が遅く、また暗い場所において目に入る光量が少ないため、若年者に比べて暗い場所の見えにくさが強くなっている。※2 そのため住宅では極端に暗すぎる場所がないようにし、急激な明るさの差が出ないような照明計画が必要である。特に夜間にトイレに行く際の廊下や階段の照明には細心の注意が必要である。

※1 色彩の心理. シーシーエス株式会社. https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color/vol38.html
  光育. ENDO Lighting Corporation. http://www.hikariiku.com/think_of_as/251/光育
※2 高齢化社会と視環境. J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje1965/25/3/25_3_163/_pdf