視覚と光4─プルキンエ現象

明るい場所では赤が鮮やかに遠くまで見え、青は黒ずんで見える。一方、暗い場所では青が鮮やかに遠くまで見えるのに対して、赤は黒ずんで見える。

このような明るさが異なると同じ色彩でも色彩が異なるように見える現象を「プルキンエ現象」という。19世紀のチェコの生理学者のヤン・エヴァンゲリスタ・プルキンエが解明した現象である。

この現象は、杆体と錐体では視感度が高い光の波長が異なることによって起きる。明るい所での視覚を「明所視」、光量の少ない暗い所での視覚を「暗所視」という。明所視では555nmの長波長側(赤色側)に感度が高く、暗所視では、507nmの短波長側(青色~青緑側)に感度が高くなる。※1

対象物が0.01~2cd/m²の明るさの範囲で、光量が少ないが完全な暗黒ではない状況にある場合を「薄明視」といい、夕暮れ時などがその時期に当たり、錐体と杆体の両方の視細胞が同時に機能している状態となる。

薄明視では目の桿体細胞のはたらきにより青色に近い波長域で視感度が高くなるため、暗がりでは花などの青みがかった色が鮮明に見えるようになる。暗くなるにつれて短波長成分を多く反射する青い対象物が明るく見え、逆に赤い対象物が暗く見えるようになる。

このプルキンエ現象に関係した事柄として以下のようなものがある。

・天体観測における照明
天体観測をしている場合、機械の操作や星図、地図を見る際に光が必要となるが、通常の照明では暗順応している目が明順応してしまうことになり、再度暗順応するまでに30分の時間を要することになってしまう。そのためプルキンエ現象を利用して杆体細胞の感度の低い赤い色の照明を用いて錐体による視力を確保するということが行われている。※2

・消防自動車の色
消防自動車は一般的に赤色であるが、プルキンエ現象により、夕暮れ以降は赤色は黒色に近づいていくため、見づらくなる。一方で夜も視認性が高い色は黄緑色(明るいライムイエロー)であるという研究が1970年代にニューヨークの眼科医Stephen Solomonによって出された。そのためアメリカなどの消防車には赤色ではなく黄緑色または黄色のものがあり、オーストリア、ニュージーランドでも視認性を意識して明るい黄緑色の消防車が走っている。※3

・道路標識などの案内板の色
日本の道路標識はうす暗くなった環境でも視認しやすいために青地に白色の字で表示している。

・茶室における演出
千利休は茶室において浅黄色(あさぎいろ)と呼ばれるうっすらと緑が混じった水色の足袋を好んで身に着けていたと速水宗達(1740~1809)の「喫茶明月集」に記されている。※4
これは利休の理想としていた薄明視に近い状態の明るさの茶室では青色の足袋が鮮やかに浮かび上がって映える効果を認識していたからだろうと言われている。プルキンエ現象が解明された1825年よりも約200年前にその現象を意識していた利休の感性の鋭さが伺われる逸話である。

薄暗い照明のレストランやパーティー会場では青いドレスが映え、また薄暮の夏の野外では藍色や青の浴衣がよりその色を引き立てて装う人を美しく見せる。現代の私達の生活でもプルキンエ現象を意識してより自分を美しく見せることを意識してみてはいかがだろうか。
  
  
※1 照明基礎講座 光とは. 一般社団法人建設電気技術協会. http://www.kendenkyo.or.jp/pdf/technology/175_basic1.pdf
※2 NightVision Light. VIXEN. https://www.vixen.co.jp/post/160212a/
※3 プルキンエ効果とライムグリーンの消防車. Better Colors. http://bettercolors.com/archives/821
※4 茶室からエレクトロニクスへ. 追手門学院大学文学部紀要. http://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/301/301940612.pdf