「闇は闇で追い払うことはできない。光だけがそれを可能にする」



マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(1929年~ 1968年)は、アメリカ合衆国のプロテスタントバプテスト派の牧師である。キング牧師の名で知られ、1960年代のアフリカ系アメリカ人公民権運動に多大な貢献を残した。

彼の提唱した運動の特徴は、「非暴力主義」である。インド独立の父、マハトマ・ガンディーの「非暴力不服従」に啓蒙され、この思想の元に人種差別を法的に失くそうと公民権運動を展開した。一切抵抗をしないという非暴力の姿勢は、単なる弱腰姿勢ではなく、非暴力抵抗を大衆市民不服従に発展させ、全世界に黒人が現状に満足していないことを知らしめるという積極的なものだった。

その運動の有名なものに1954年のバスボイコット事件がある。
黒人がバス内で白人に席を譲らなかったために逮捕されたことに抗議するための運動で382日間続いた。黒人達が自家用車などに乗ることでバスに乗ることに抵抗した結果、人種差別容認に対する違憲判決を勝ち取り、運動は成功を収めた。この運動は公民権運動に一般の民衆が初めて参加したものとしてその後の公民権運動に大きな影響を与えた。
1963年にワシントンD.C.での20万人に及ぶ大規模デモでの演説「I Have a Dream」は心を打つ演説として有名である。演説は多くの人々の記憶に残り、人種差別撤廃への共感を得る。翌1964年には公民権法が成立し、この年キング牧師にはアメリカ合衆国における人種偏見を終わらせるための非暴力抵抗運動の功績を理由にノーベル平和賞が授与された。その後ベトナム戦争にも反戦運動を展開したりしたが、1968年に暗殺されてしまう。

彼は「闇と光」と題して以下のように述べている。

――暴力の究極の弱点は破壊しようとする当のものを生み出してすまう悪循環でしかないことだ。
暴力によってウソつきを殺すことはできてもウソを殺すことはできないし真実を確立することもできない。
暴力によって憎しみを抱えた者を殺すことはできても憎しみを殺すことはできない。
反対に、暴力は憎しみを増大させるだけだ。そして、その連鎖に終わりはない。
暴力を暴力で返すことは、暴力を増殖し星のない夜の闇をさらに深めてしまう。

 闇に闇を追い払うことはできない。光だけがそれを可能にする

憎しみに憎しみを消し去ることはできない。愛だけがそれを可能にする――

キング牧師は、差別に対して憎しみで応えるのではなく、愛で乗り越えていくことを訴え続けた。この言葉は彼が非暴力であり続けることの大切さや、人種差別という暴力をなくすには愛の光が必要であることを人々に切々と訴えている言葉だと言えよう。

いまだアメリカには人種差別の問題が存在する。いつの日かキング牧師の願いが実現し、人種差別のない愛の光に満ちた社会になることを望みたいものである。