「君の求める光は、君自身の内にあるのだ」


ヘルマンヘッセ(1877年~1962年)は、ドイツ生まれのスイスの小説家、詩人。1946年にノーベル文学賞受賞。その作風は感受性に訴えかける描写と深い精神世界の表現が特徴である。「車輪の下」は自伝的小説として有名である。

祖父、父共にプロテスタントの牧師であり、ヘッセも将来牧師の道を歩むと周囲が決めていた。神学校に入学し、非常に優秀であったが、「詩人になりたい」という願望を強く持っていたために脱走する。寄宿舎に戻ってから、不眠症、ノイローゼとなり自殺未遂も起こして神学校を退学し、約半年後に高校に入学するが1年もしないうちに高校も退学してしまう。

その後、本屋の見習いになるが3日で逃亡し、父の手伝いなどしながら過ごした後、17歳で町工場の見習い店員となる。工場で働きながら読書をして内面を磨き、18歳には書店の見習いとなる。19歳に詩を発表し22歳で処女詩集を出す。25歳で古本屋店員となり、27歳で「郷愁」を発表し高く評価されて小説家として有名になる。

第一次世界大戦の頃には、家庭の崩壊や平和主義的発言に対する非難などで精神的に苦しむ。精神的な苦痛を糧にしたヘッセの作風は、42歳で執筆した「デミアン」からそれまでの詩的で穏やかな人間の生き方を描いたものから、内面の道を追求する、求道的なものへと変化する。

「シッダールタ」では自我の発見と完成をテーマとし、仏教的内面世界を表現した。
西洋文明の行方に対する懐疑、東洋思想の接近などの事柄を含んだこの作品は、高く評価され、ドイツ文学を代表する作家としてのヘッセの名をゆるぎないものとした。

執筆以外には水彩画を描いたり、庭仕事を楽しみ、禅にも興味を持ち、「禅に対しては大きな尊敬の念を抱いています。」との言葉を残している。また、何千通もの世界中からの悩みや相談の手紙には、自分の使命と言って仕事の時間を割いて自分で返事を書いていた。

君の中には、君に必要なすべてがある。
太陽もある。
星もある。
月もある。

 君の求める光は、君自身の内にあるのだ。

――苦難に出会い、出口が見つからず途方に暮れたような時や、自分が分からなくなった時は自分の内面を見つめてみよう。
自分の中には大きな宇宙が広がっている。そして神であり、希望であり、真実でもある光は自分の内に射しているのだ。その光を見つけ、自己を見つめることができれば、自分の道を見出し、明るい未来を目指して歩を進めて行ける。――

この格言からは、人生は自己追求の旅であり、いかにして真の自己となれるかが重要であるというヘッセのメッセージを読み取ることができる。

晩年は穏やかな日々を過ごし、生涯を通じて「自己の探求」に努めた光の求道者は、85歳でその生涯を静かに閉じた。