「小さなろうそくがなんと遠くまで照らすことか!」

シェークスピア(1564年~1616年)は、英国の劇作家、詩人。作品には現代にも通用し得る人間の精神に対する深い洞察や社会倫理への鋭い風刺なども巧みに織り込まれており、世界の文学史を語る上で欠かすことのできない最も重要な作家の一人である。

上記の格言は、「ヴェニスの商人」の中に出てくる言葉である。主なあらすじは以下である。

——ヴェニスの商人アントーニオーは、恋に悩む友人のために自分の胸の肉1ポンドを担保に悪徳高利貸しシャイロックから借金する。ところが、彼の商船は嵐で遭難し、財産の全てを失ってしまう。借金返済の当てのなくなったアントーニオーは胸の肉を切り取られてしまうことになるが、友人の恋の相手であるポーシャが男装し、法律顧問になりすまし、裁判の際に、「肉1ポンドをとる際に1滴の血も流してはいけない。」と指摘し、結局ユダヤ人高利貸シャイロックはアントーニオーの胸を切り取ることはできないうえに元金も返してもらえず、財産は没収され、キリスト教に改宗させられる。——

小さなろうそくがなんと遠くまで照らすことか!このように、善行も汚れた世界を照らすのです。

この言葉はポーシャが裁判でアントーニオーを救ったあと、自宅に帰る並木道で遠くに見える自宅の広間で燃えているろうそくの光を見て発したことばである。多分、ポーシャは、良いことをして幸せな気分に浸っていたことだろう。遠くに見える小さくても光輝いているろうそくを見て、自分のしたことを思いながら—善行はどんなに小さなことでも、ろうそくの光のように明るく輝いて暗い世界を明るくしてくれる―と嬉しい気持ちで言ったのであろう。

東日本大震災の際、停電した闇の家の中で、ろうそくの光は小さくても光輝いて回りを照らしてくれた。ろうそくの光に力強さを感じたことはに新しい。

この格言は、その影響力が小さいと思われる善行や努力であっても、それらがろうそくのように小さくても力強い光となって世界に良い影響をもたらしてくれる、と私たちへ語りかけてくれる。どんな小さなことでも善い行いをすることで可能性が広がることを信じ、前向きに行動することを後押ししてくれる名言と言えるであろう。