「一灯をさげて暗夜を行く。暗夜を憂うなかれ、一灯を頼め。」


  
佐藤一斎(さとう いっさい)(1772~1859年)は江戸時代の儒学者。幼い頃から読書を好み、武術にも優れ、13歳の頃には頭角を現し、成人のような扱いを受けていたという。34歳の時に朱子学の塾長となり、多くの門下生の指導にあたった。70歳の時に、幕府が設立した唯一の大学である「昌平坂学問所」を統括する身となった。現代で言えば東京大学の総長にあたる地位である。彼の門下生は3000人と言われ、渡辺崋山など幕末に活躍した人材を弟子として多く輩出している。88歳の時に昌平坂学問所の官舎で息を引き取った。

40代から約40年かけて著した著書「言志四録」(げんししろく)1133条には、学ぶこと、生きることの大切さが語られており、西郷隆盛はじめ幕末の志士に大きな影響を与えた。その内容文は現代にも通用する部分が多くあり、感銘を受けた人達がいろいろな場面で現代でも引用し活用している。

この格言は「一張の提灯を下げていれば暗い夜道も暗い闇も怖がることはない。ただ自分の足元を照らすその一つの灯りを頼りにして歩き進めばよい。」ということを言っており、
—どんなに先が見えないような窮地に陥ったような場合でも嘆き悲しんだり、惑うことなく自分自信の生き方、志を信じて進めばよいのだ―
という意味が込められている。

誰もが立ちすくんでしまうような暗闇の中で、不安に包まれて歩む時に足元を照らしてくれる灯りがあることはどんな力強い支えになるか分からない。その灯りとなる意志や目標をしっかりと持ち、その光が照らす道を力強く歩み進んでいきたいものである。

この格言は現代の多くの政治家、経営者の行動指針にもなっている。リーダーとして歩む人達に、暗闇のような困難な状況に置かれた時でも、先が見えない未来に向かって高い志を持って信念を貫き通すことの大切さを説き、前に進んでいく力を引き出す言葉となっている。

困難な状況にあっても自分の信じる意志を強く持って歩み続けることを勧め、その歩みを励まし、後押しする言葉として、この格言は今もそしてこれからも人の心に響く言葉として生き続けていくだろう。