朧月夜

春の景色は「霞」がかかって薄くぼやけて見える。この「霞」は霧ほど濃くないかすみ方をしているものを言い、夜になると「朧」と呼び名が変わる。
「朧月」は霧や靄(もや)などに包まれ、柔らかくほのかに霞んで見える春の月のことで、古くから俳句などにも詠まれてきた。
17世紀後半(江戸時代初め)に朧月を詠った俳句がある。

「大原や蝶の出て舞ふ朧月」(内藤丈草 作)
―緑深い大原で、うすぼんやりとした朧月の光を浴びて、闇(やみ)に舞い出した蝶が白く浮き出して見える―
風もなく湿度の高い夜に穏やかでぼんやりとした月の光に誘われるように蝶が飛び始める様子が目に浮かぶようでとても幻想的である。
また文部省唱歌に「朧(おぼろ)月夜」があり皆さんも子供の頃歌った記憶があることだろう。

 

菜の花畠(ばたけ)に 入り日薄れ、
見わたす山の端(は) 霞 ふかし。
春風そよふく 空を見れば、
夕月 かかりて にほひ淡(あわ)し。

里わの火影(ほかげ)も、 森の色も、
田中の小路 を たどる人も、
蛙(かわず)のなくねも、 かねの音も、
さながら霞(かす)める 朧(おぼろ)月夜。

 

―春の菜の花畑が広がる景色、夕日の光が薄くなり山の麓あたりに霞がたなびいている。朧月が出てきて里の灯りも森も小路を歩く人もぼんやりと霞んで見える春の月夜―

春の光に包まれた夕暮れの美しい景色が表され、曲は明るく心に深く届くような旋律で日本人であれば誰でもが懐かしさと感じる曲なのではないだろうか。

春という穏やかで暖かさのある季節に朧月を見ると、やわらかな光に暖かい春になったことが感じられ、心の中までしっとりと安らいでくるような気持ちがしてくる。
皆さんも春の宵に、散歩でもしながら朧月のやわらかな光に春の気配を感じてみてはいかがだろうか。

 

photo by Ian Stannard