翻訳できない光

木漏れ日。
森林、街路樹などの木から日光が漏れているさまを表すこの言葉は、日本人にはなじみの言葉であり、誰しも一回は木漏れ日の降りそそぐ木の下でくつろいだことがあるのではないだろうか。
しかし、“木漏れ日”は他の国の言葉で翻訳できない日本特有の表現である。
英語で翻訳をしてみると、
“sunlight that filters through the leaves of trees”=木の葉を通って漏れた日光
となる。かなり不格好な言葉であり、“木漏れ日”がもつ風情が半減したように感じられてしまう。
一方で、日本語にない光を表す言葉もある。
“Mångata”(モーンガータ)
これは、スウェーデンにある言葉で、水面に写った月の光が道のように反射している様子を指す。日本語にしてしまうと説明的であるが、スウェーデンの豊かな自然の中で感じられる、スウェーデンならではの言葉であり、日本語のみならず他の言語でもその情景を的確に表せる言葉はないだろう。
木漏れ日やモーンガータのように、自然と光が作り出す美しい風景によって心を動かされた人々は、それを表す名前を付けてきた。形のない光は、名前を付けることによってその存在を明確にすることが出来るのだ。
まだ名前のない光たちに名前を付けていったら、見えなかった新しい景色が見えてくるのではないだろうか。

参考文献:「翻訳できない世界のことば」