【四季の光を詠んだ歌】光と影のコントラスト

6月、梅雨の季節真只中で、さっぱりと晴れた青空が恋しい今日この頃。今回は、一足早く夏を先取りした和歌をお届けしたい。

葉をしげみ外山の影やまがふらむ明くるも知らぬひぐらしの声
葉が生い茂った戸山の陰の暗さを、夜の暗さと間違えているのだろうか。
夜が明けたのも知らずに鳴いているひぐらしの声が聞こえる。

藤原実方

この歌は新勅撰和歌集に収録されている藤原実方が詠んだ歌である。

高く抜ける清々しい青空に真っ白な入道雲。瑞々しく生い茂る草木と、それが差すように鋭い日差しを受けて地面に落とす色濃い影。夏は色彩のコントラストがとても美しい季節である。
ひぐらしは日の出前や日の入り後の薄暗い時間帯に鳴く蝉である。そんなひぐらしが、夜が明け日が差す時間帯にも関わらず、色濃い影の中にいるのを夜と間違えて鳴いている─。
この歌は、夏の鮮やかさと賑やかさ、その季節特有の色彩と音をありありと感じることのできる歌である。

梅雨が明ければ夏がやってくる。太陽が照り付け過酷な暑さに参ってしまう日々が近付いてきているが、そんな時には陽の光が生み出す影にも注目してみて欲しい。この歌のような、自然あふれる草木の影、都会のビル群の影、足元に伸びる自身の影─光と影がこんなにもビビッドなコントラストを描いているのは、夏の時期だけなのである。