【四季の光を詠んだ歌】秋風に攫われる光

9月。残暑が厳しい頃ではあるが、暦の上では秋が始まっている。華々しい夏が終わり、冬へと向かうその道中だからだろうか、秋はどこか感傷的で刹那な印象を抱かせる。今回は、秋の光の繊細な美しさを詠んだ和歌をご紹介したい。

白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける
葉の上で光っている露の玉に風がしきりに吹きつける秋の野は、
まるで紐に通して留め繋いでいない真珠が散り乱れて飛んでいるようだ。

文屋朝康

この歌は後撰集に収録されている文屋朝康が詠んだ歌である。

雨降りの後、野原に茂る草花に露がきらきらと光っている。
秋らしい涼し気な風が野原に吹きすさび、露が風に攫われて飛び散っている。

そんな秋の風景を、まるで首飾りの紐がほどけてはらはらと舞う真珠のようだと例えており、なんとも比喩表現が美しい歌である。真珠はきらびやかに輝く宝石とはまた違った艶のある光を持ち、その淑やかな輝きが秋の雰囲気や空気感とも調和している。
野の草花についた露という些細なものに着目し、また、整った様子ではなく乱れた様子の美しさを詠んでいるところに作者の美的感性が伺えて面白い。こうした見過ごしてしまいそうな小さな美しさに気が付けるのが秋という季節なのだろう。

風が冷たくなり、陽は早々と沈み夜が長くなっていく。これからだんだんと秋らしさを感じることが増えていくだろう。夜長の秋だからこそ、日常に潜む小さな輝きを見つけて楽しみたい。