【アワーシリーズ】スモーキーアワー

温泉街などで見かけやすい朝霧。運転中などは厄介であるが、とても非日常的な体験であり、まるで丁寧に刷毛で描かれた風景画のような、幻想的な光を生み出す現象と言える。

霧と雲はとても良く似ているが、霧は雲の一種であり、地表付近に生じているものを霧、上空にあるものを雲と呼んでいるのだ。それらはどちらも空気中の水蒸気が飽和状態となり、水滴となったものである。基本的に空気中の水分が冷やされることで発生するのが霧である。
日の出前は1日で一番気温が低いため、霧がよく見られやすいのだ。

ここでは特に秋の朝よくみられる霧を2種類ご紹介したい。

【放射霧】
秋~初冬、日本では特に盆地で見られることが多い。これは山地が空気を冷やし、重くなることで盆地に流れ溜まるためである。地表面の放射冷却によるもので、放射霧と呼ばれる。
「朝霧は晴れ」という言い伝えがあるが、これには理由がある。高気圧が上空を覆い雲一つないくっきりと晴れた夜に放射冷却が起こりやすいため、その後高気圧の影響で晴れやすいのである。

【蒸気霧】
蒸発霧ともいう。同じく秋~初冬に見られることが多い。空気と比べて温かい水面の上に、冷たい空気が流れてきたときに発生する。水面から蒸発した空気が急激に冷やされるためだ。川や湖などの水面上に立ち上っている様子を見たことのある方もいるのではないだろうか。まるで温泉から湯気が出ているような風景となるのだが、実際の川は空気と比べると暖かいというだけで冷たいことが多いので注意したい。

朝な朝な立つ川霧の空にのみうきて思ひのある世なりけり(古今和歌集・読み人知らず)
毎朝立つ川霧が空に浮いているさまのように、自分の心もぼうっと浮いてばかり、ゆううつで中途半端な自分の恋模様であることよ…という意味の句である。霧のどこか現実味のない感じと自分の心模様を重ねたとても情緒ある歌だ。

霧は秋の季語として古くから多くの人にインスピレーションを与えてきた。
寒くなってきた昨今ではあるが、少し早起きして季節の情景を楽しんでみるのはいかがだろうか。