江戸時代の生活と光5─あかり(1)


日本人は古来から時代と共にあかりとして様々な灯器具を生み出してきた。特に江戸時代には置き行灯、掛け行灯、提灯、石灯籠など様々な形式の油やろうそくを使う灯器具が生まれ、現代の天井照明、壁照明、スタンド照明などに匹敵する多くの種類のあかりが生まれた。また、光の調光可能な器具も創られ、江戸時代は日本の古来からの「あかり文化」の完成期とも言える。

江戸時代を代表する灯りは「行灯」(あんどん)である。行灯が生まれる前は「灯台」という名前の灯器具を使用しており、台の上に油を入れて火を燃やす灯火皿が置かれている形式で火がそのまま露出していた。

行灯は火の回りを和紙を貼った枠で囲み,風などの影響で灯火が消えないように工夫したもので、それまで露出していた光が紙を通した間接的な光になり、やわらかい印象の光となった。行灯の中には油皿が置かれ、その中には灯心が浸されており、この灯芯に火を点けてあかりとした。灯芯には古い麻布、綿布、などを細かく裂いて使用し、着古した着物なども灯心にして最後まで有効利用していたとされる。

行灯の種類は多く、置行灯、掛行灯、釣行灯、辻行灯、金網吊り行灯、などがあった。形も角形には四角、六角、八角、丸形には円筒形、球形、みかん形、なつめ形、円周形(円筒の半分が回転する)などがあり、角形行灯には1脚、2脚、3脚、4脚のものがあった。

行灯の明るさは暗く、60ワットの電球1個の約50分の1程度だったと言われている。現代の私達にとってはかなり暗いと感じるが、当時の書物は墨によりくっきりと書かれたもので、行灯の光のもとでもかろうじて読めたのではないかと言われている。また、浮世絵にある雲母の粉もしくは貝殻の粉を用いて背景を塗りつぶす「きら擦り」は、行灯のもとで見るときらきらと光ることを想定して製作されていたと思われる。

行灯には和紙が貼られているが、日本の和紙は薄く丈夫であり光の透過性に優れていることが行灯のあかりとしての効果を高めたと言えるだろう。また、行灯には日本人ならではの創意工夫がされたものがあり、日本人の細やかな感性を感じることができる。その例を次回にご紹介する。

参考「実見 江戸の暮らし」石川英輔