江戸時代の生活と光7─あかり(3)


江戸庶民の知恵と工夫がつまったあかりとしての灯器具をいくつかご紹介する。

幕末に生まれた「書見行灯」は行灯の覆いの一部を丸くくりぬき、ガラスをはめ込み、書物が読みやすくなっている。「レンズ付き書見行灯」は覆いの一部に凸レンズがはめ込まれ、火皿がレールを移動して光の焦点が前後に加減できるようになっている。この時代に灯りの焦点が調整可能な器具を制作していたことには感心する。

また、「ねずみ短けい」と呼ばれるものは、四角の台座の上に支柱を立て、その上に油皿を載せて使用する灯火器で上部にねずみの形の給油タンクがあり、皿の油が減ってくると空気圧の作用でネズミの口から自動的に皿に給油される仕組みのものである。ねずみの造形に遊び心を感じる。

「無尽灯」は江戸時代後期に現東芝の創設者であり、東洋のエジソンと呼ばれた田中久重が発明した。空気の圧力を利用して油が管を伝わって灯心まで上るという循環式給油装置を備えたもので、長時間安定したあかりを供給することができ、「いつまでも消えないあかり」として商売や生活水準の向上に貢献したあかりである。

江戸時代には、武士や庶民の区別なく自由な移動は厳しく制限されていたという。しかし寺社参詣を目的とした移動には寛容だった。江戸時代も中期から後期になると太平の世が続いた結果庶民にも経済的な余裕が生まれ、お伊勢参りや寺社参誌詣に出かけることが多くなったという。江戸日本橋から伊勢神宮に参る場合はおよそ10日から15日程度かかり長い旅となっていた。旅の際に必要なものを携帯する必要があり、自分の行灯などを持ち歩くための道具「道中枕行灯」が生まれた。

「道中枕行灯」は、旅行用携帯枕で、木箱の中に、小型の行灯、ろうそく、そろばん、筆記用具などがコンパクトに収納されており、夜は小さな布団が縫い付けてある木箱の蓋を枕にして眠れるようになっている。自前のあかりと共に備品を運ぶことができる大変に便利なものであり、江戸時代の人の旅を助ける一助となっていた。

また、裁縫道具一式を入れる針箱と行灯を一体化させた「行灯つき針箱」も存在していた。行灯のもとで裁縫に勤しむことが多い人には便利な道具であったことだろう。