日本人と灯り (3) – 美しい光の灯影

夏祭りの季節となった。各地で暑さを吹き飛ばすような活気ある祭りが行われている。その祭りの夜を飾るのは、温かい雰囲気のある提灯の灯りである。
提灯は江戸時代における庶民の貴重な灯りで、初期は竹かごに紙を貼ったものでろうそくを中に入れて灯りとしていた。提灯には用途に応じていろいろな種類があった。

高張り提灯は、江戸時代初期には武家で使われ、時代が移るにつれて芝居小屋や遊郭でも利用されるようになった。卵形をした大きな提 灯で、竿の先に高く吊るして、門前に張り出すように掲げて使用し、神社の定紋、商家の屋号などを書き入れて、目印として利用された。現在でも阿波踊りでは遠くからでもどの集団の踊りか分かるように高張り提灯を掲げた行列が進んでいくのを見ることができる。

弓張り提灯は、提灯を竹の弓で上下に 引っ張ったもので、風にも揺れず安定していて、点火したまま床に置くことができ、日常の移動用照明器具として広く使われていた。時代劇の獲り物帳で 「御用」と書かれた弓張り提灯をかざして、くせものを取り囲む場面はお馴染みだ。

吊り提灯は寺社への献灯や祭礼の御神灯として用いていた。岐阜提灯はこの一種で盆提灯や装飾用として様々な形態色彩のものが作られ、その美しさが認められて現在では海外にも輸出されている。

小田原提灯は携帯用の提灯として旅に便利に使われたものである。江戸時代中期、東海道の宿場町であった小田原の提灯職人が考え出したと言われ、いくつかの特徴がある。
第一に折りたたむと懐中に入るので携帯に大変便利であった。
第二にまげし(上下の蓋)に大雄山最乗寺の霊木(杉)を使っており、その霊力により妖怪変化に会わないで安全に旅ができるとされた。
第三には胴の蛇腹部分の竹ひごが四角形に削られているので糊付け面が多く、雨や霧で容易には剥げずに長持ちした。旅に使われた小田原提灯は、便利なだけでなく、旅路の無事を願う旅人にとってお守りの意味もある大切な旅のお供だったことが伺われる。
 
 
提灯祭りは全国各地に数多くあるが、提灯三大祭りといわれているものは、秋田県の竿燈祭り、福島県の二本松提灯祭り、愛知県の津島天王祭、である。他に山口の七夕提灯祭りは室町時代から続いているもので、笹竹に付けた約10万個の小さな紅提灯が美しい光景を描く。

日本人が愛する淡くほのかで温かい光、それを和紙で包んでやわらかな光を届けてくれる提灯。その継承されてきた美しい光の灯影は、照明器具として明るさを与えてくれるだけでなく、人々の心に安らぎと潤いを与えてくれる灯りとしてこれからも生き続けていくのではないだろうか。