日本人と灯り (4) – 壁と床をやさしく照らしあげる行燈

前回の提灯に引き続き、日本人が古くから利用し、今でも照明器具のデザインに継承されている行灯について取り上げる。

行灯は室町時代以降に油を燃やす灯火具として生まれ、江戸時代に一般に普及した。台の上に油を入れた灯火皿が置かれ、その中に浸された灯心に火をつけるもので、灯火皿の周囲は紙を貼った枠で囲まれ灯火が風で消えたり揺れ動くのを防いでいる。

行灯のあかりは紙を通してのやわらかい光で、照度は60ワットの電球1個の50分の1程であったそうだ。現代の明るさに慣れた私たちにとってはかなり暗いと思われるが、当時の人々には貴重な明るさだった。

行灯には目的に応じて様々な種類のものがあった。置き行灯と呼ばれるものは室内で使用するもので、収納部分に灯芯やろうそくを収納できるものもあった。

掛け行灯は軒先につけて屋号や商品名を書いて看板として利用したもので、いわゆる看板照明とも言えるものだった。

遠州掛行灯は一部分に囲いがなく、二重になった半円形の障子を回転させて、光量を調節したり着火の際の利便性を工夫した行灯。台座に抽斗(ひきだし)が付き、着火道具や蝋燭などを収納する。

有明行灯は四角型の木枠内に紙製の火袋がはってあり、木枠の外側上部と内部底に、火皿を置く台がある。明るい光を得たい場合には、火皿を外側上部に置く。明るさをおとして常夜灯として使用したい場合には、火皿を内部に置いて、横窓から光が漏れるようにする。遠州掛行灯と共に昔の人が、光をコントロールして使えるように工夫を凝らした照明器具といえる。満月や三日月をかたどった横窓をもち、常夜灯として枕元に用いられた。有明とは、明け方のこと、あるいは夜が明けた頃にまだ 天に残る月のことをいう。月のように朝まで夜の闇を照らす有明行灯は、機能・デザイン・名称共に月を連想させる、風情あふれる照明である。
 
行灯は光源が火からLED電球などに変わっているが、現代でも和風旅館などで雰囲気を醸し出す照明として利用されている。畳に座って灯りを採っていた日本人にとってほっとするやさしい灯りとして今でも愛される照明である。行灯は低い位置から床と壁を陰影のある光で照らし、天井にもほのかな光を広げて、何ともいえない心落ち着く味わいのある光を投げかけてくれる。
 
伝統ある日本の照明としてこれからも日本人の心を温かく照らしてくれることだろう。