日本画と光 – 美術から紐といて見えるもの

西洋画における光の扱い方は、キアロスクーロのように、光と影によるコントラストによる画面作り、写実的な表現が重視されている。
一方で日本の絵画では光はどのように描かれてきたのだろうか。
日本画は当時の最先端であった中国絵画「唐絵」を元に編み出され、東洋独自の感性と空間意識による表現を行っている。線画を重視し、面を平坦に捉えることが多く、輪郭と質感を表すことに重きが置かれている。仏画などにあるように、光もそこに実際は存在しない記号としての「線」によって描かれ、現代の私達には漫画的な表現にもつながるようにも思える。
何故このような違いが生まれたのだろうか。そこには絵具の違いが影響しているという説がある。油絵具が発明されてから、西洋では画面を垂直に立てた状態で絵を描くことが可能になり、画家は眼球を移動させるだけで対象物を写し取ることができた。一方、東洋の水溶性の絵具は画面を水平に寝かさなければ絵具が流れてしまうため、画家は対象物から一旦目を離し、顔を下に向けて描くことになる。外界を一度頭に入力し、記憶にしたうえで紙の上に再構築するというステップが、写実とは異なる美意識を育んできたのだ。
このように、西洋と日本における美術画においても光の在り方は全く異なり、その写実性は文化や風土、環境だけではなく、描写技術の違いによるという事も興味深い。

輪郭と質感を重視する日本画、そして光と影のコントラストによる写実的な西洋画。当時の人々はそれぞれの文化の中で、独特の美意識を育み、そして伝えてきた。私達も、目に見えるものだけではなく、その時代の歴史、時代背景・環境なども想像しながら絵画鑑賞すると、より一層美術を楽しむ事が出来るのではないだろうか。

長きに渡る歴史の中で、芸術家が一貫して人々に訴えかけている本質的な事は、西洋も日本もあまり変わらない気がする。ただそれが具体的に一体何なのか、という事はまだぼんやりしていて明確ではない。だからこそ、先人の残したものを糸口に、目に見える物質的なもの内なる精神的なものの本質を感じ取る感性を、日々磨く必要があるのではないだろうか。