視覚と光8─視覚障害者

日本眼科医師会の報告によると2007年時点で日本の視覚障害者の人口は約164万人である。視覚障害者のうち失明者は約19万人で、あとは良く見える方の視力が0.1以上0.5未満のロービジョン者で約145万人となっている。ロービジョン者とは全体がぼやけて見えたり、視野の一部に欠損があるなど見え方は様々で光を手掛かりに日常生活を送っている人達である。

また、視覚障害者164万人のうち半数は70歳以上で60歳以上を含めると高齢者は全体の72%を占めている。高齢化に伴い、何らかの視覚障害を持つ人は今後も増加し、2030年には200万人になると推測されている。視覚障害者が安全で快適に活動できる光環境に関しての配慮はこれからますます必要となってくる。

2011年の大震災以後、節電が奨励されて鉄道駅構内などでも消灯や減灯により暗い環境となり、ロービジョン者にとっては見にくい光環境となっている。照明が暗かったり、明るさにむらがあると、安全確認、経路確認、案内サインの見え方に影響を与え、階段やホームからの転落、柱などへの衝突など危険回避がしにくくなる場合が生まれる。

そのため空間の適度な明るさと明るさのむらが生じない光環境が望まれる。また、照度と共に輝度も見やすさの重要な要素となるため、照明計画では照度と輝度を一体的に評価して見えやすい光環境を計画したい。

視覚障害者が夜間外出した際に視覚的手がかりとしているものは街路灯、門灯、商店、看板、自動販売機、ガードレール、点字ブロック、信号機などである。そして暗闇をなくして曲がり角や街路灯を明るくし、通行人や標識を見やすくしてほしいという光の改善を求めている。

駅などの構内で視認性の低さから起こる危険としては階段や段差がある場所での転倒、ガラス面が見えず気が付かなかったための衝突、見えにくい柱などとの衝突、見にくいサイン表示による誤認識などがある。階段の段鼻には明確な目印となるものを施したり、通路進行方向を示すサインを床や壁や天井などにわかりやすく表示し、光を点滅させたりする視覚障害者の視認性を高めるデザインの工夫が望まれる。

視覚障害の原因となる主な病気には、加齢黄斑変性、白内障、糖尿病網膜症、緑内症、屈折異常(病的近視)などがあり人生の後半になって視覚障害を負う人達が多い。今後もますます視覚障害者は増えていくことが予想されている。

身体障碍者のバリアフリー対策は広く普及しているが、視覚障害者に焦点を当てたバリアフリー化の取り組みは未だあまり進んでいない。視覚障害者の特性や傾向に対応した安全で快適で美しい光環境の創造を推進していくことは今後の豊かなユニバーサル社会の実現に大きな影響を与えていくこととなるだろう。