「人生あまり難しく考えなさんな。暗かったら窓を開けろ、光がさしてくる」


中村天風(なかむら てんぷう:1876年~1968年)は、日本の思想家・実業家。30才の時に、当時不治の病であった結核を発病した。その後、心身共に弱くなった自分を強くする方法を求めて、欧米を遍歴し、人生の真理について追究した。

しかし、満足な答えを得られず失意のうちに帰国をする途中、ヨガの聖者と出会い、弟子入りをしてヒマラヤで2年半修行を行った。その結果、病を克服し、帰国後は実業界で活躍する一方、人間の命のあり方を研究し「心身統一法」を確立した。
彼の哲学の中心にあるのは、積極的な精神を持つことこそが人生を幸福なものとするという思想である。「積極的になれば人生に苦難や苦痛はあろうとも、それを心の力で喜びと感謝に振り替ることが出来る」と説いている。
 

 人生あまり難しく考えなさんな。暗かったら窓を開けろ、光がさしてくる。

 
前半の言葉かけには天風が長い間人生の真理を見つめてきたからこそ言える言葉であり、そこには人に対する温かいまなざしを感じる。後半は窓を開けろという強い言葉で積極的な行動を促している。そうすればシャープな光がさしてきてより物事がはっきり見え、未来を明るく照らしてくれるだろうということを示唆しているのだろう。

暗かったら窓を開けろ、光がさしてくる。この表現からは窓をあけろという強いメッセージと共に、光と闇のコントラストの強さとシャープな光のイメージを受ける。

――外界と遮断され閉ざされたうす暗い室内空間、外界と室内を繋ぐ窓の存在、その窓からさし込む明るく強い光――

これらのイメージは日本古来の開かれた建築空間や開口部とは異なった西洋の閉ざされた建築空間とその開口部を思い起させる。

また、さしこむ光も日本の障子などから入る間接的なおぼろげな光でなく、ゴシック建築の上からさし込む光のような直線的で明るく強い光を感じさせる。
人生の真理について追究するために欧米やインドを巡り歩いた天風は、様々な国の文化に触れることによって広い世界観や豊かな感性が培われ、日本人でありながら西洋の文化的な感覚をも持つに至ったのだろう。そのことが彼の光や空間に関する認識に大きな影響を与え、このような表現を生み出したと言えないだろうか。

この格言は、彼が長い間苦労をして得た人生観や広い世界観から生まれた深い示唆に富んだ格言と言えるであろう。