「どんなに暗くても、星は輝いている。」

ラルフ・ワルド・エマーソン(1803~1882年)は、アメリカの思想家、哲学者、作家、詩人、エッセイスト。無教会主義の先導者であり、ニーチェや宮沢賢治、福沢諭吉、内村鑑三らに影響を与えたことで知られている。

エマーソンはアメリカマサチューセッツ州ボストンで、何代も続いたキリスト教聖職者の家系に生まれた。7歳の時に父親が他界し母親に育てられる。

14歳でハーバード大学に入学し、18歳で卒業するまで、学費を賄うために学生食堂のウェイターなどの仕事をこなした。その後21歳までボストンで教師として働いた。ハーバード神学校に入学し、26歳で牧師になる。そして結婚をするが結核に冒されて妻は2年も経たずに他界してしまい、彼は強い衝撃を受けてしまう。後に彼は32歳の時に再婚している。

妻の死後、教会の一般的な礼拝法に対して教会との意見の相違を公にしたために牧師の職を29歳の時に解任された。そして彼は宗教的概念や伝統の限界に縛られない自由な思想家としての道に進んでいくのである。

その後、ヨーロッパを旅行し、パリで植物園を訪れ、植物の体系とそのあらゆる対象の相関性に大きな感銘を受けた。この経験から生まれたものが後に出版する評論「Nature」で展開する「超越主義」の考え方である。

その考えは「宇宙の本質、神と人間の内面とは究極的に同質のものだとして、人間の精神、自我そのものが神である」というものである。自然の中に神の啓示を見て、それを直感により感応することにより、神との一体化を図り、絶対的な魂の自由を獲得せよという主張である。

アメリカに帰国後は、ボストンにおいて行った講演を始めとして講演者として生計をたてていく。そして、ニューイングランド及び国内の多くの地域で有名になり、アメリカの知的文化を先導する発言者として人々を惹きつける存在となっていく。

64歳頃からエマーソンの健康状態は悪化し記憶障害や言語症に苦しむようになり、79歳でこの世を去った。

どんなに暗くても、星は輝いている。

―苦境に立ち、目の前が真っ暗になっていたとしても、よく見れば希望の星が小さく輝いているのがきっと見えるだろう―
この格言は苦しい状況に負けずに新たな一歩を踏み出して歩いて行こう、と悩みや悲しみに苦しむ人を励まし勇気づける格言である。

エマーソンは人間の自我を限りなく高揚し、それを神に等しいものと考えた。そして自然を人間精神の象徴であるとして人間と宇宙との独自の関係を見出し、多くの講演を行い、評論を記した。

彼の提唱した考えは成長する19世紀のアメリカの土壌に根差し、アメリカの姿を反映しながら宗教や文学などに新しい息吹を与えた。そして今もアメリカのフロンティアスピリットにも通じる概念として私達現代人の心に訴えかけ、新たな道、新たな希望へと導いているのである。