「闇から輝きへ、そして無関心から行動へ。感情がなければ変換など起こりえない。」

カール・グスタフ・ユング(1875~1961年)は、スイスの精神科医、心理学者。分析心理学と呼ばれる臨床心理学を創始した。

ユングの心理学は人間の心理を無意識の働きから説明する深層心理学と呼ばれるもので、人間の様々な心理や心と環境世界との関わりについての考察をしたものである。また、ユングは易や禅、ヨガ、密教の曼陀羅などの東洋思想についての研究や、キリスト教、錬金術、心霊現象などについても幅広く研究を行い、人文科学者、宗教思想家としても活躍した。

ユングは1875年、スイスで牧師の家に生まれた。祖父がバーゼル大学の医学部教授であり、その影響もあってバーゼル大学の医学部に進み精神医学を学ぶ。25歳でチューリヒ大学の助手となるがその後辞職して個人開業する。

31歳でオーストリアの精神医学者ジークムント・フロイトに出会い、彼の精神分析学の理論に自説との共通点を見出し、親交を深める。しかし学問的な食い違いのために38歳でフロイトと決別する。その後は臨床と研究にいそしむが、幻覚を見るようになり、次第に精神的に不安定になっていく。

40代後半になり、より真の自己になるためには1人になる場所が必要だとしてスイスのチューリッヒ湖のほとりに「石の塔」と呼ばれる簡素な小屋を自力で石を積み建設する。ユングは後にこの塔の中で一人、著述作業や研究をして過ごすことで精神的な安定を得ることができたと言っている。

50代になると曼陀羅と患者の意識との関係を研究する。そして、ある個人が心的な分離や不統合を経験している際に、それを統合しようとする心の内部の働きの表れとして曼陀羅を生じる場合が多く曼陀羅は人間普遍の宇宙観を示すものであると考えた。60代以降は著述に専念し、84歳でこの世を去った。

闇から輝きへ、そして無関心から行動へ。感情がなければ変換など起こりえない。

―物事の見えない部分を見えるようにしたり、物事に関心を持つことで行動を起こしたりするには、起こそうとする現象の原動力としてその根底に強い感情がなければならない―
既成の科学や常識に捕らわれずに物事の本質を見極めようとする姿勢で自らの科学を研究し探求していったユング。亡くなる10日前まで執筆を行い、共著「人間と象徴」の担当部分を完成させたと言われている。

彼は自分の理想を実現するための行動への強い意志を持ち続けた人生を送った。この格言には、彼の人生に裏打ちされた理想の生き方への強いメッセージが含まれているのではないだろうか。