囲炉裏

2月は暦の上では立春を迎えて春が始まる月とされているが、実際にはまだまだ気温の低い日が続き冬の寒さが身にしみる月である。

寒さをしのぐ暖房として昔は家の中に囲炉裏があり、家族が揃って暖を採りながら食事をしたりおしゃべりをしたりする光景が見られた。囲炉裏のある空間は家族や客人とのコミュニケーションを深める大切な空間であった。

囲炉裏の原型である炉は竪穴式住居にすでにあったことが分かっている。時代が下がり、土間、居間、座敷などの居住空間が機能分化すると、火を使う場所として現在知られているような囲炉裏の形が登場した。囲炉裏は家の中心に設置され、縄文時代から近世にまで日本各地で広く使用されてきた。

囲炉裏は火の神の祭り場として最も家の中で神聖な場所とされ、囲炉裏を大切にすることはその家の暮らしを大切にすることであったという。温暖な西日本ではかまどの発展と共にかまどが主流になったが、東日本では江戸時代以降も囲炉裏が多く利用されており、特に北陸地方の場合、昭和30年代にかまどが作られるまで囲炉裏で煮炊きをしていた。

囲炉裏の機能は、主に暖房、調理、であるが、灯りとして証明の機能も持っていた。さらに衣類、食糧、生木などの乾燥や、茅葺屋根や藁葺屋根の住居の防虫性能を高めたり、かまどや照明器具の火種としても使われた。そして何よりも囲炉裏は家族や人を集結させてコミュニケーションを図る場としての大切な機能を持っていた。

薪や木炭を燃やしてできる囲炉裏の炎には人の心を和ませる効果があり、囲炉裏の火を囲みながらのひと時は心が暖まり安らぎと癒しを与えてくれるものである。囲炉裏ばたの明るさは5~20ルクスと言われ、決して明るくはない。しかし、集う人々の表情を陰影の中に美しく浮かび上がらせて心の交流を促す光である。

多くの機能を持ち、日本人の生活を支えてきた囲炉裏。
囲炉裏の炎の光は、長い間日本人の暮らしを支えながら温かく見守る光であったと共に人々の気持ちをつなぐ心のよりどころの光でもあったのではないだろうか。

Photo by Shinichi Watanabe