江戸時代の生活と光11─光線画家「小林清親」


最後の浮世絵師と呼ばれる画家の一人に小林清親(こばやしきよちか)がいる。小林は幕末に生まれ、「光線画」の技法を始めた浮世絵師である。

光線画とは光と影を効果的に用いた技法で、光の揺らぎ、色彩の変化を細やかに写実的に捉えた木版画である。空を画面上部に広く描き、雲、月、夕焼け、朝焼け、などを巧みに大胆に表現しているのが特徴である。

「大川岸一之橋遠景」

小林は1847年に江戸本所の御蔵屋敷に下級役人の家に生まれた。青年期には鳥羽・伏見の戦いに幕府軍として参加し幕末の動乱を体験した武士の一人であった。幕府崩壊後は住居や職業を転々とするが、幼い頃より好きだった錦絵に生活の道を見出した。
明治9年(1876)に洋風版画「東京新大橋中図」など5作品を出版し、好評を得た。これらの風景画は「光線画」と呼ばれ、新しい表現方法の浮世絵として浮世絵界に新たな風を吹き込んだ。
光線画は対象物とそこに当たる光源の特性によって全ての色彩と明るさや物質の質感が生まれるという原理を基にして小林が写生や写真、銅版画、石版画などで学んだ技術を使って従来の浮世絵にはない光と影の表現を開発し季節や天候の繊細な移ろいを、光と影で巧みに表現したものである。
文明開化による社会の変化を見つめながら光と影を効果的に用いて江戸から東京へと移り変わっていく都市の風景を描いた小林の光線画は、郷愁と新しい社会への希望を抱く当時の日本人の心に受け入れられて好評を博した。その後小林の画風は変化していったが、光線画の画風は後の絵師達に受け継がれていった。

「新橋ステンション」

従来の浮世絵の一般的な題材である役者や美人などを題材とせずに、世の中の動きに目を向けてその移り変わる都市風景を光と影で美しく表現した小林清親。その作品の数々は光に対する細やかな感性を映し出したものとして美しく仄かに煌めいている。これからも浮世絵史上最後の浮世絵師とされる小林の光線画は多くの日本人の心を打つ作品として愛されていくことだろう。