葉桜を愛でる


今年の桜は開花が早く、3月のうちに咲き誇り4月に入る頃には花びらが風に舞っていた。

世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし
─もしもこの世の中に桜というものが無かったとしたら、春を過ごす人々の心はどれだけのどかであることだろう

上の歌は在原業平が詠んだ桜にまつわる有名な歌であるが、この歌で詠まれている通り、遥か昔から桜は私たちの心に深く根付き「いつ咲くのだろう」「いつ散ってしまうのだろう」と私たちを一喜一憂させる。

散っていく桜の姿には物悲しさを感じるが、しかし花の季節が終われば今度は青々とした葉桜が楽しめる。桜の花が春を象徴するものであるならば、桜の葉は夏の始まり、夏の気配を感じさせるものであろう。みずみずしい緑の葉は、だんだんと日差しの強さを増す太陽の光を反射してきらきらと鋭い輝きを見せ、春にはない光の表情を引き出している。

葉桜や 愛でるは私 ひとりきり
─葉桜を美しいと思うのは、私ただひとりだけである

葉桜を詠んだ歌に上のような歌がある。確かに桜は、可愛らしく、美しく、そして儚い、薄く色づき春を呼ぶ上品な花の魅力に目が向けられがちであるが、花が散った後、青々と実る葉には生命の力強さが感じられ、一変してまた違った魅力を発揮している。
花が散った後、葉桜となった桜に注目してみればまた新たな桜の魅力に引き込まれることだろう。この時期の桜も、ひとりきりではなく、ぜひ皆でその美しさを共有し楽しみたいものである。
 
 
Photo by Otota DANA