脱炭素社会の実現に向けて12─バイオフィリックデザイン(2)


【該当項目】SDGsの各項目について照明分野からの働きかけ
③健康的な生活を実現する照明計画
⑧ストレスフリーな職場の照明
⑩豊かな感性を育む光
⑬エコロジーな照明計画
 
 
2001年米国環境保護庁により実施された調査結果において「人間が生活の中で建物の中にいる時間は平均で90%以上」という調査結果が発表された。そして室内環境の重要性が認識され、環境改善の取り組みが行われてきた。特にバイオフィリックデザインは近年注目される環境創出デザインである。

「ヒューマンスペース」は世界の職場におけるバイオフィリックデザインの効果についてまとめたもので世界16か国7600人対象に調査をした結果を報告している。それによると自然の要素のない室内環境で働く人々に対して自然の要素のある環境で働く人々の方が幸福度、生産性、創造性は6~15%高くなったとしている。また、この効果については象徴的な自然要素や疑似自然要素でも効果が認められるとしている。

また、44%の人がオフィスに自然光を求めており、光は重要な環境要素であることが示された。バイオフィリックデザインで最も重要視されているのが自然光の採り入れ方である。
昼光を有効に建築デザインに採り入れることは省エネ建築としても重要な条件となっている。照明デザインでいかに自然な光で空間演出をするかという課題に対しては、近年製品化されている太陽光スペクトル照明を利用することを提案したい。

太陽光スペクトル照明は太陽光の波長と類似した波長を持つ照明であり、人間の生態機能を向上させるという研究結果が多々確認されている。
2019年に国際照明学会誌に掲載された、スイスのバーゼル大学クリスティアン・カヨセン教授の研究チームの論文では「太陽スペクトルLEDソリューションが、睡眠質の向上、視覚の快適性、知覚能力、快適な気分について有益な効果が認められる」としている。最近では知的生産性の向上が実験により確認され、ストレス低減や疲労感の軽減による健康の促進や作業能力が向上する可能性も示唆するとされた研究結果も出ている。※1

特に自然光が入らない空間においては太陽光フルスペクトル照明を利用して、サーカディアンリズムに沿った照明環境の創出により、快適な光環境が実現できる。

フルスペクトル照明は、自然光に準じた演色性が高く、質感や色などの見え方に優れている。美術館や病院、視覚の弱った高齢者施設などで効果的に利用したい。

「ヒューマンスペース」の調査では、室内環境空間に求めるものとして自然光の次に観葉植物の存在を約20%の人が希望している。観葉植物は、人の目に優しく、ストレスを解消するなどの心理効果を持ち、様々な化学物質を吸収することで室内空気環境の浄化する機能も持つ。また、緑視率(視界に入っている緑(植物)の割合)が10~15%程度だと人間が適度に作業に集中できリラックスできるといわれている。

最近では、コーヒーショップやレストランでも多くの緑を取り入れ、さらに店内のLED照明で植物を栽培し、料理に使用するという例も出てきている。
バイオフリックデザインは人と自然が調和を図れるようなデザインをすることで人にも環境にも優しい空間を創造することができる環境創出法と言える。
 
 
※1 グリーンインフラポータルサイト. 国土交通省. https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000015.html