江戸時代の生活と光6─あかり(2)


江戸時代に普及した行灯には、光量を調整できるものが存在した。

行灯が生まれる以前には「瓦灯」(かとう、がとう)が光量を調整できるあかりとして多用されていた。瓦灯は火皿を器具の中に置くと隙間から光がやさしくもれて就寝時のあかりとなり、上部に火皿を出すと作業の時のあかりとして使うことができ、目的に応じた光を得ることができるあかりであった。

「遠州行灯」は置き行灯で覆いが円筒形をしているが完全に囲わずに一部が空いている。ここから点火・消火の操作を行ったり、行灯自体を回して光量の調節ができるようになっている。文字を読むなど手元を明るくしたい時は覆いの無い部分の明るい光で照らすようにし、通常は覆いのある部分での和紙を通したやわらかい光で照らすことができる灯りである。
「有明行灯」も置き行灯で灯火部の油皿の部分と灯火部を支える木の箱の部分から成っている。通常は油皿を外箱の上に置いて明るい光で使用し、油皿を箱の中に収めると箱の側面に施された和紙の模様を透過したやさしい光の常夜灯となる。
有明行灯の覆いとなる黒漆の箱には各面に三日月や満月の形などの異なる模様の窓があり、窓ごとに光の透過する形や量が異なり、違った光の表情を見ることができる。箱の上部に丸穴が空いていて、天井に満月が映し出され、寝ながらにして灯りの満月を楽しむことができる工夫を施したものもあった。
有明とは空にまだ月が残っていながら夜明けを迎えた状態のことを言う。この灯具も常夜灯として明け方まで火がもったとされ、有明行灯を呼ばれるようになったと言われており大変風情のある灯具である。

明るい光が必要な時は光源からの光を直接得、仄かな明るさが必要な時は灯具の中に光源を納めるという形式のあかりは、江戸時代の人々が明るさを上手に調節して生活していたことが伺える灯具である。