光と陰の世界で生まれ変わるもの – 日本酒 (1)

近年、日本酒の良さを知る人が増え、世界的な日本酒ブームが起きている。輸出額は昨年、過去最大になり、この10年間で約2.7倍に膨らんでいるという。

丹精こめて作られた酒米は丁寧に磨き、精米され、美しい白米となって酒造りが始まる。新酒誕生までの様々な工程は温度や湿度を細かく調整しながら進められ、光の要素を必要としない陰ともいえる空間で日本酒は作られていく。

特に麹を作る工程は良い麹ができれば酒は7割できたも同然といわれるほど重要な工程となっている。麹室は酒蔵の財産といわれ、現在でも二重扉、密閉窓、断熱壁など環境づくりには細心の注意が払われている。ここには日本人が昔から作り上げてきた日本家屋に見られる自然と共存し光を取り入れてきた開放的な開口部は必要なく、生きている麹菌にとって過ごしやすい環境は外気や外光を遮断した閉鎖空間なのである。

麹室での作業は麹の様子を見ながら50時間以上続くという。30℃という高い室温でしかも光や風を取り入れない密閉された空間での作業は辛い作業であっただろう。それでも麹菌づくりへの熱意を持ちながら、暑くて明るさの少ない空間で懸命に作業をし続けていた職人からはきっとより良い酒づくりの気迫が溢れているに違いない。

 

沢山の光を浴びて育った稲穂が、光を遮断された陰の空間の中で洗練され眠り、姿を変え進化し再び光の中に日本酒と言う姿で産声を上げる。 陰影の中でこそ育まれ、深まり、広がり、纏う独特の雰囲気。それが一つ一つの個性と味わいに結びついていく。
それぞれの土地で、酒職人達が心を込めて作ったであろう作業を思い浮かべながら選んでみるとお酒選びもさらに楽しくなるのではないだろうか。