炎と夢想


エアコンや床暖房が進化し続ける昨今、石油ストーブを見かける機会はめっきり減った。しかし、石油ストーブから垣間見る赤い炎を暗闇の部屋で見ると、自分が今いる世界とはまた違った世界がその炎を中心に再構成されるような気がする。
フランスの哲学者、ガストン・バシュラールは「空間の詩学」の第7章「ミニアチュール」において、詩人は「光るもの」を第一価値として「家庭のランプ=太陽」という見立てから宇宙を夢想した、と書いた。つまり、人々をランプが一つ灯るテーブルに座る侘しい家庭という現実から、空へ、宇宙へと誘ったのだ。
現在では一点から光を放つような明かりは消え去り、部屋は隅から隅まで照らされてしまっている。その世界は私たちから夢想のきっかけを奪い、今ある世界から私たちが離れることを許さない。それは暖房器具にも言えることで、私たちは熱源を見ることなく、ただ「暖かい」ということだけを受容している。
暖房器具が欠かせなくなり、炎を見る機会も減った今、部屋を暗くしたうえで改めて石油ストーブの光をぼーっと見てみてほしい。私たちは忙しない現実から離れた、新しい自分だけの世界をその光を中心に作ることができるかもしれない。

 
参考文献:ガストン・バシュラール(2002)「空間の詩学」 ちくま学芸文庫