光のパブリックポリシー12 高齢者と照明1


世界の総人口は2015年で73億7,980万人であり、2060年には101億5,147万人になると見込まれている。総人口に占める65歳以上の者の割合(高齢化率)は、1950年の5.1%から2015年には8.2%に上昇しているが、さらに2060年には17.8%にまで上昇するものと見込まれている。

このような世界的な高齢化に対応して2015年度世界保健機関(WHO)の「高齢化と健康に関するワールドレポート」では、ウェルビーイングを可能にするためのものとして「健康な高齢化」を目標に定めている。そして「高齢者の統合ケア」(ICOPE)がWHOの高齢化とライフコース部局により作成された。*1

「高齢者の統合ケア」とは、高齢者の内在的能力(身体的・精神的能力)の低下を予防・改善したり、遅らせたりすること、また補完することでその人の機能的能力を最大限に引き出せるようにするためのガイドラインである。機能的能力とは、個人の内在的能力と居住環境との組み合わせ・相互作用である。

このガイドラインは急性の疾患や症状に関するニーズだけではく、加齢に伴って顕在化してくる慢性的な健康に関するニーズにも注目したものとなっている。生涯にわたり諸機能を維持することを目標にして機能障害の進行を予防、遅延、停止させるためのガイドラインであり、照明との関連も記述されている。

高齢者の加齢による視覚障害などは、活動量が低下したり、社会への参加・関与に制約が生じたり、転倒リスクの増大にも繋がる。住居室内空間の光の調整や、転倒予防箇所への効果的な照明の利用など、照明による居住環境の改善は健康な高齢化を実現する。

日本国内の高齢化に目を向けると65歳以上の高齢者人口は総務省によると3640万人(2021年9月現在)で、総人口に占める割合は29.1%で過去最高となった。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期に生まれた世代が65歳以上になる2040年には、35.3%になると見込まれている。高齢者が3人に1人以上の割合になるのである。*2

「高齢者への照明」というテーマで過去にALGのLight+に取り上げたが、社会的なニーズの高まりに応じて再度高齢者と照明について考察してみる。

■参考文献
*1https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/258981/9784819202589-jpn.pdf?sequence=5&isAllowed=y 日本公衆衛生協会 「高齢者の包括的ケア」
*2 https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1291.html 総務省統計局 高齢者の人口