冬に咲く純白の花


「フロストフラワー」と呼ばれる冬にしか咲かない花をご存知だろうか。寒さの厳しい冬の夜、湖の上に咲き誇り、そして朝を過ぎれば散ってしまう。そんな幻想的で儚げな「花」の正体、フロストフラワーとは、氷の結晶のことである。

フロストフラワーを見るためには、気温がマイナス15度以下であること、湖の表面が凍結していること、無風であることなどの厳しい条件がそろっていなければならない。氷の結晶が花びらのように幾重にも重なり合って膨らんだ様子はとても可憐であり、それが湖の表面を覆い尽くす景色はまさしく絶景である。

しかし、この花の命はとても短い。気温の低い朝方にしか見ることが出来ず、また息を吹きかけただけでもほろほろと崩れて溶けてしまう。

Light+では以前、透明な結晶からなる雪がなぜ白く見えるのか(2018.12.11「ホワイトクリスマス」より)について取り上げた。雪が白く見えるのは、光の波長が吸収されることなく不純物の無い透明な結晶の表面を乱反射しているためである。陽の光を浴びて純白に輝くフロストフラワーは、しかしその光のために溶けてしまう。なんとも儚いこの花の純粋な美しさは、様々自然条件が偶然にそろうことではじめて見ることができる、自然が生み出す一瞬の芸術なのである。

自然が偶然によって生み出す、人間の力の及ばないところにある芸術はたとえ一瞬のことであったとしても、記憶の奥深くに残る美しさであろう。